FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」【第55回】
【第55回】生前の相続対策と家族信託について
2021年4月30日
FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第55回目のコラムは、生前の相続対策と家族信託に関するお話です。
人生100年時代において
人生100年時代と言われ、超高齢社会に突入した日本において、認知症患者の増加は、大きな社会問題となっており、厚生労働省によれば、2025年には、高齢者の5人に1人が認知症患者と予想されています。この事態は、相続の現場にも大きな影響を与えており、相続を考える上で、認知症はもはや欠かせない要素と言えるでしょう。さらには、夫婦共に認知症というケースも珍しくなく、「自分の死後に相続などの後処理はしっかり者の妻がやってくれる」と気軽に考えることはできなくなっています。
生前の相続対策のすすめ
人間は生きている限り、お金や住む家などが必要です。故に誰もがその死に際して、何かしらの「遺産」を遺します。自分のことであれ、家族のことであれ、いつか必ず相続の当事者となります。遺された家族が一番困ること、それは「亡くなった人の意思が分からない」ことです。人生100年時代においては、自身が元気なうちに、自分だけでなく、遺された家族の相続まで考えた準備をしておいた方がよいでしょう。以下、代表的な相続対策を記載します。
- 遺言書の作成
遺言者の意思で財産の配分を指定でき、遺産をめぐる争いを未然に防止することが可能となります。遺言書に財産の内容を記載することにより、相続人にとっては遺産の把握が容易になります。また遺産分割協議が不要となり、相続手続きの負担が大幅に軽減されることが期待できます。
- 任意後見制度
任意後見制度は、認知症などにより判断能力が低下した人を法的に保護する制度です。認知症と診断された際に、本人の代わりに行政手続きを行ったり、預貯金の入出金を行ったりすることが可能な任意後見人をあらかじめ公正証書により決めておくことで、本人が十分な判断能力を有する時に、将来判断能力が不十分となった時に備えるための制度です。
- 生前贈与
計画的な生前贈与は、相続財産を減少させ、相続税の軽減に効果的です。1年間に受取る贈与金額が110万円以下であれば贈与時の課税はなく、税務署への申告も不要です。贈与金額が110万円を超える場合、贈与税がかかりますが、贈与することによって減少した相続財産にかかる相続税との兼ね合いにより、効果的な場合があります。
相続対策の落とし穴
これまで相続対策の必要性と代表的な対策を説明してきましたが、これですべての問題を解決できるわけではありません。思わぬところに落とし穴があったり、相続対策実施後に問題が生じたりすることもあるのです。
例えば、遺言書の作成では、2次相続以降を決めることができません。また認知症になってしまうと作成ができません。任意後見制度においては、任意後見契約の効力が発生すると、家族でも財産を動かすことが一切できなくなることがあります。定期的に任意後見人等への報酬が発生することも考慮しておかなければなりません。生前贈与では、認知症になってしまうと意図通りに贈与ができなくなってしまうほか、一定の条件を満たさないと贈与者の財産として取り扱われてしまう「名義借り」や毎年一定の金額を贈与することが決まっている「定期贈与」と見なされ、思いのほか税額がかかってしまうこともあります。これらの落とし穴には十分注意する必要があります。
家族信託は相続対策の切り札になるか
そこで注目され始めているのが、「家族信託」という制度です。家族信託は、家族のための財産管理承継制度であり、財産を「管理(守る)」「活用(活かす」「承継帰属させる(遺す)」という機能を一つの信託契約を交わすことによってできる、他にはない制度です。以下、代表的な機能をご紹介します。
- 長期にわたる財産管理機能を有する(守る)(活かす)
本人の資産をしっかり管理し、家族と本人の生活を守るというのは、まさに後見的な財産管理機能ですが、任意後見制度とはその守備範囲が大きく異なります。任意後見制度は、本人の財産は本人のためにしか使えません。したがって、本人を支える家族が真に困っていても、また本人が家族の救済を希望したとしても、原則その管理する本人の財産を家族のために利用することはできません。しかし、家族信託は違います。信託の目的によっては本人の財産を家族のために活用することができます。また、新たに賃貸用のマンションやアパートを建築購入するなどしてそれまでの事業を拡大することもできるうえ、制限はあるでしょうが金融商品を購入して資産運用をすることもでき、さまざまな「相続対策」のために利用することができます。
- 資産承継機能を有する(遺す)
家族信託は、本人の資産を本人の意思に従って特定の者に、確実にしかも円滑に承継できる制度です。それも一代に限らず継続承継できます。遺言制度とは異なり、さらなる将来を見越した奥が深い仕組みとなっています。遺言は、遺言者の大切な財産を相続人など誰にどのようにして配分して遺し、後世に役立たせるのかの意思表示ですが、その視点は遺言者の死亡時ということになります。しかし、家族信託は本人死亡時に財産を承継させるものもありますが、利益を享受する者を次の世代に連続させたり後継ぎ遺贈型の財産承継を行ったりすることも可能となります。そのうえ、一定の変更手続きを踏めば、その権利者を変えることもできます。しかも信託財産は本人の遺産からも除外されますので、遺産分割協議の対象ともならないのです。
今回、挙げた例はごく一部にすぎません。多様なニーズに合わせた使い方が可能な家族信託。一方で制度を悪用するケースも目立ってきているとの声も聞きます。今後、相続対策の切り札となるのか、その動向に注目しましょう。
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